読書メモ

■「木漏れ日に泳ぐ魚」 恩田陸/文春文庫
 初夏のアパートの一室で、別れることが決まった男女が最後の夜を語り合う。男は、ある秘密の決着をつけようとしていたが、女にもまた決意があった。お互い、さりげない会話の中で探りあいながら、やがて2人の思惑を超えた事実にたどりついていく……。
 登場人物は2人、舞台はアパートの一室。いわゆる一幕物と呼ばれる設定。少しずつ事実があきらかになっていく流れと男女の心理戦にドキドキします。章ごとに一人称が交替していくのも面白い。僕は大好きですが、ハッキリとわかりやすい話ではないし、読み手を選びそうです。読後感は奇妙な爽快感があります。

■「読んでいない本について堂々と語る方法」ピエール・バイヤール/筑摩書房

 面白い。刺激的で魅力的な一冊。タイトルから受ける印象とは大違い。この本、マニュアル本でも、サブカル本でもありませんよ。いたって真面目、大真面目。本を読む/読まない、はどこで二分されるのか。そもそも本を読むとは、どういうことなのか。流し読みは読んだことになるのか。一冊の本を読み込むという行為の持つ危険性とは。むしろ、読んでいない方がその本について理解できる、という論の意外な説得力……。

■「幻想郵便局」 堀川アサコ 講談社文庫
 山の上にある不思議な郵便局。そこに勤めることになった主人公の女性と、そこで出会う不思議な人たちとのお話。中学校の図書館とかにも置いておくと良さそうな、読み手の世代を選ばない、ファンタジー。(読了)

■夏色ジャンクション 福田栄一 実業之日本社文庫
 ミニバンで寝起きする主人公、大金を所持する謎の老人、ヒッチハイクで旅をするアメリカ娘。ひょんなことから3人はそれぞれの事情で、一緒に青森を目指すことになるが……。

■「宇宙軍士官学校―前哨―3」鷹見一幸・ハヤカワ
 相変わらず主人公がへたれ風のできるヤツ。鈍感さも含めて、なんとなく恋愛ノベルの主人公っぽい。今風のジュブナイルはこうなるのかも。さて、教官たちの練習航海も大詰めで、戦闘シーンは手に汗握ります。右舷被弾!みたいな、SF少年心をくすぐります。大長編を期待しているのですが、展開が思ったより早いような。どのくらいで完結するんだろう。

■「ココロギ岳から木星トロヤへ」小川一水・ハヤカワ
 さっくり読める時間モノSF。設定のぶっとび具合も心地よく、話の展開もさらさらと軽快で面白い。この作者さんは、大長編になるとへビィな展開が続くので、まさに帯にあるとおり、長編連載中の小休止といった感じ。

■「ヴィヴァーチェ 紅色のエイ」あさのあつこ・角川文庫
 封建的な植民惑星で貧しい暮らしをする主人公が、宇宙へとでていく冒険SF。シリーズの第一作目。息苦しい世界から自由な世界への脱出……という感じ。まだ話がはじまったばかりで、どう展開するのか楽しみ。

■ペンギン・ハイウェイ/森見登美彦(角川文庫)
 郊外の街に突然ペンギンがあらわれ、主人公の少年は謎の調査に乗りだす。理知的で大人びた、という表現でさえ物足りないほどの、規格外の小学4年生と、不思議な力を持った歯科医院のお姉さんとペンギンの奇妙なお話。どんな話か読み終えた後でもうまく説明できないけれど、たっぷりとこのお話を楽しめた。主人公の少年の心地いいまでに理知的な思考回路と、謎だらけのお姉さんのやりとりが面白い。