読書メモ

■青空の卵(坂木司/創元推理文庫)
 複雑な過去が原因で、ひきこもりになってしまった親友と、彼をなんとか外の世界へ連れ出したい主人公。ある日、日常で 出会った謎を話すと、彼は鮮やかにその謎を解いてみせたのだった……。やがて、その謎がキッカケで様々な人と出会い、二 人の世界は広がっていく。
 探偵が変わり者なのはお約束、でも本作はワトソン役の成長、探偵役の変化、2人の共依存な関係など、謎解きだけではな い、成長物語としての楽しみもあり。短編集。3部作で完結。

■5分後の世界(村上龍/幻冬舎文庫)
 第二次大戦から違う歴史を歩む、並行世界の日本に迷い込んだ男が、生き残ろうとサバイバルする話。PS2の同名ソフトを遊んでことがあったので、古本で見つけて購入してみた。ゲームと舞台は同じだが、話はまったく違う。小説では、戦闘描 写にかなりのページを使っていて、その物量に圧倒される。話は、異郷探訪的な流れのままで終わって残念だが、どうやらそ の徹底的な戦闘描写こそが本作の狙いのようでもある。

■スリープ(乾くるみ/ハルキ文庫)
 テレビ番組の取材で、冷凍睡眠装置を研究する施設を訪れた中学生レポーターの女の子、羽鳥亜里沙。彼女は立ち入 り禁止の区画に入り込み、見てはいけないものを見てしまい……。
 近未来の描写は魅力的で、展開の面白さもある。物語の仕掛けとしては、見事にやられたーという感じ。ただ、話の内容としてはどうにもやりきれないお話。例えるなら、悪いヤツが見せるいい面は爽快だが、逆は後味が悪いみたいな。仕方ないとはいえ……やりきれない。

■切れない糸(坂木司/創元推理文庫)
 「青空の卵」がよかったので、続編の前に別の作品を入手。こちらも日常の謎を扱う連作短編集。実家のクリーニング店を急きょ継ぐことになった大学生の新井和也は、慣れない仕事のかたわらで、様々な謎に出会ってい く……というはじまり。
 古本屋や珈琲店、時計屋にスープ店と、日常の謎とお店は相性がいいようですが、本作はクリーニング店という変化球…… と思いきや、実は直球。持ち込まれる服から、その家庭の生活がわかってくるという背景から、謎とクリーニング店は意外とよくマッチしていまし た。商店街の人間模様もいい味で、「青空の卵」同様、主人公と周囲の人たちとの関係が深まっていくのも魅力的です。

■晴れた日には図書館へいこう ここから始まる物語(緑川聖司/ポプラ文庫)
 図書館と本が大好きな小学5年生の女の子「栞(しおり)」と、図書館をめぐる謎解きのお話。何年も前に、おすすめ小説紹介コーナーで感想を書いた「晴れた日は図書館へいこう」が続編とあわせて文庫化。いわゆる「日常の謎」ですが、起きる事件は図書館と本にまつわる、ちょっと奇妙な出来事を、主人公やいとこで司書をしている美弥子さんが解決していきます。
 この作品の素晴らしいところは、事件が日常レベルでありながら、ちょっとだけ不思議があり、それでいて現実的で説得力のある解決がされるところです。そして短編集でありながら、話が進むにつれて登場人物の輪が広がっていところもステキです。もともと児童書として発行されたようですが、推理系文庫にあっても違和感はないと思います。それにしても1作目が2003年で、続編が2010年というのはすごいです。いい物語にそういう力があるのかもしれません。

■先生と僕(坂木司/双葉文庫)
 ミステリ初心者にして「物騒な話」が怖くて読めない大学生の僕は、偶然にもミステリ好きの少年の家庭教師をすることになる。ところがこの少年、大人顔負けの洞察力と行動力を兼ねそろえた天才少年だった。でこぼこコンビが日常の謎に巻き込まれ、解き明かしていく短編集。
 ミステリというと、殺人事件とトリックのような「物騒な話」が多く描かれる中で、「日常の謎」というジャンルが確立されたのは、わりと最近のことです。本作は、そんな「日常の謎」に出会ったヘタレな大学生と天才少年の、どっちが先生かわからない関係の面白さと、「青空の卵」や「切れない糸」の探偵役にも通じる、探偵的視点を持つ者としての孤高さの両方が描かれます。
 また「日常の謎」も「物騒な話」ではありませんが、そのぶん「人の善意・悪意」といった身近なものがあり、単なるエンタメに終わらない奥深さを感じる作品でした。作品内で、実際のミステリ作品が紹介され、それが物語の内容にリンクするという、面白い試みもあります。

■一番線に謎が到着します(二宮敦人/幻冬舎文庫)
 蛍川鉄道藤乃沢駅。若き鉄道員である夏目壮太が、個性的な同僚、先輩たちとともに、様々なトラブルや謎を解決していく短編集。大事なマンガ原稿を車内に置き忘れた編集者の女性、駅構内で起こる不思議な現象、雪で閉ざされた列車の救出作戦……どれもが日常からスタートしながら、最後には心熱くなる展開へと収束していきます。
 日々変わらぬ「列車の運行」という職務と、個性的な鉄道員たちの日常をベースに、そこで起こる「日常の謎」をスパイスに、描かれるのは、鉄道員たちの熱いプライドとハート。1冊で何度も美味しい作品です。特に最終話は、大雪のお話ですが、中身は熱いです。

■少年少女飛行倶楽部(加納朋子/文藝春秋社)
 クラブ活動必須の中学校で、入りたいクラブがなかった主人公の海月(みづき)は、なりゆきで飛行クラブに入部することに……。真剣に「飛行」を求める部員たちの、不器用な青春物語。

■新艦長就任! 紅の勇者オナー・ハリントン①
 航宙軍の巡洋艦に着任した主人公オナーは、上層部の不評を買い、辺境宙域へ。たった1隻で宙域を警備するハメになり、乗組員との関係も悪化の一途。そんな中、辺境宙域で敵対国の工作が判明する。圧倒的に不利な状況で、けしてあきらめず、手持ちの札で立ち向かう……。
 不利な状況をひっくりかえす、いわゆる知略の限りを尽くして戦うミリタリーSFの面白さが詰まった1冊。

■世界の涯ての夏(つかいまこと/ハヤカワ文庫)
 近未来の、<涯て>と呼ばれる異次元的な球体によって空間が浸食されていく世界。そんな中、とある島へと疎開している少年は、転校生の少女と出会う。
 世界の終わりとボーイミーツガールという、お約束にも感じる序盤ですが、もちろんそれだけでは終わらないSF作品でした。いくつかの視点から語られていく状況が、自然と世界の終わりの謎へ結ばれていきます。
 ボーイミーツガールとして期待すると、やや物足りない感もありますが、少年と少女のやりとりは甘酸っぱく描かれ、世界の終わりを単なる「終わり」としない話のまとめ方など、SF的な満足感のある一冊でした。

■夏のバスプール(畑野智美/集英社文庫)
 1学期末テストの朝、高校一年生の涼太は見知らぬ女の子からトマトを投げつけられる。いろいろあって、その女の子と仲良くなるものの、何やら事情があるらしい上に、因縁の野球部員とつきあっているらしいとの噂。おまけに追試が決まり、親友と幼馴染のカップルはすれ違い、たった2週間で別れた元カノは妙な視線を送ってくる。でも、やっぱり、その女の子のことが気になる涼太は……。

 こちらは正真正銘のボーイミーツガール。2012年の夏休み直前の高校を舞台に、今時な高校生たちが繰り広げる恋愛ストーリー。登場人物たちの欠点や、いいかげんな部分などがそのまま描かれながらも、それについてはスルーしつつ描かれていくストーリーも本作の魅力の1つでしょうか。解決すべきは、そこにないという一種のすがすがしささえ感じました。

 主人公が好きになる少女「久野ちゃん」は、夏がよく似合う少し不思議な子なのですが、序盤から「ほれちまうやろー」と思ってしまい、彼女が登場すると何が起きるかワクワクしながら読みました(笑)。人間関係とは誤解からはじまる、の例題のような真夏のボーイミーツガールストーリー。

■宇宙軍士官学校8、9(鷹見一幸/ハヤカワ文庫)
 相変わらず壮大な話がハイテンポで展開中。なんだかんだで主人公無双。描かれてない部分を脳内補完するのも慣れてきて、結果的に楽しんで読んでいます。さてさて、いよいよ次で結末とのことですが、はたして太陽系はどうなるのでしょうか。やっぱり宇宙ものはいいなぁ。